照柿
■単行本にあって文庫では削除された表現
・合田が、太陽精工総務部長宅へ脅迫電話をした後、地面が傾いて見えるのは母が倒れたときと加納が涸沢で雪崩に埋まったとき、と回想する場面が削除。
■ちょこっと変更
・全体に、加納の合田への想いが本人にバレバレなのが文庫。
・水戸での会話はかなりこまごまと変更あり。「猿でも悩む」は単行本では加納が、文庫では合田自身が発言。帰省の暇を問われて「ほされてる」@単行本、「永田町を疑心暗鬼にさせとく」@文庫など。あと細かいですが、「い抜き言葉」は徹底的に修正されています。
・キリスト教から仏教へ改宗!
・加納母、亡き人…!!!!
・先に手に触れたのは合田@単行本、手相見のドサクサで手を握る加納@文庫。手相占いなんかできないんでしょ、加納よ!?
・達夫殺人後の合田取調べにて、直接電話で話す場面は伝言に変更。
・ラストの合田から加納への手紙、義兄殿→祐介殿に変更。こういう修正は大歓迎♪
~以下、個人的な感想及び突っ込みです~
「やるならもっとうまくやれ」
って誰ですかアナターーーー!!!!!!(大絶叫)
単行本では「それで、ほされてるのよ」とか「問答無用。君の罪を小生が代わりに負うことがかなうものなら」など大好きなセリフがいくつもありましたが、文庫では、文庫では……シクシク。唯一「俺の背中で何か考えているだろう」はちょっと好きです。広くてたくましい背中を想像できるので。
マークス文庫も「なんだか安っぽくなった?」と感じましたが、照柿はさらに加速していましたorz もっとこう、ときどき男らしくぞんざいな物言いはしても、隠し切れない上品さってものがさ、加納の良さであり持ち味でしょう。高村さん、これはいくらなんでもヒドイです。
合田シリーズでは照柿が一番好きな作品だけに、文庫の改訂はどうしても受け入れられないのでした……。
マークスの山
■単行本にあって文庫では削除された表現
・春に会ったとき「避難場所が欲しい」というから合鍵を渡した、でも顔を合わせないよう気づかっているようだ、という文章が削除。文庫読者にはなぜ加納が合鍵持って留守宅へ侵入してくるかわからない。これじゃただの変質者・・・。
・佐伯殺しの前後、地検に電話した合田に応対する場面と、その後佐伯宅で同僚検事に「俺の義弟だ、よろしく」と紹介する場面はさくっと削除。好きなシーンなんだがなあ・・・。
・山で殴りあい、首をしめあい、雪崩に巻き込まれそうになりながら笑っていた、雪崩の後合田が加納を「愛してる」と感じた「俺たちはなぜ山に登るのか」を合田が考える場面が削除。
・合田留守宅に「冬こそ穂高!」特集の山の雑誌を置いていった描写が削除。(だが文庫では・・・)
・水沢遺体で発見後の電話シーンざっくり削除。「いいとも。ゆっくりゆっくり登ろう」てな加納は非常事態なのにおっとりしていてすごく素敵なのに。
■単行本になくて文庫で追加された表現
・松井殺しの際、被害者が検事ときいて合田が加納を思い浮かべる。(こういう一文をしれっと追加するから高村さんの文庫化は怖いw)
・東京駅キヨスクでランデブー。
・古い調書をコンビニからファクスしてまで合田を応援。そして合田は「会いたい、信頼に足る意見を聞きたい」と恋しがる。留守電にメッセージまで残すいじらしさ。(やはり恐るべし、文庫化での加筆!)
・甲府行きの直前、合田宅でご対面。合田のために風呂を用意してやる。スコッチも持参しているらしい。(侮りがたし、文庫化!ということで。)
■ちょこっと変更
・返事を書かせる威力のある手紙(単行本)だったのが、読まずに捨てられかねない手紙(文庫本)になっている。(合田さん、読んであげてくださいよ・・・)
・松井殺しの後の王子署ででくわした場面で、単行本では合田が「おい」と呼びかけているが、文庫では目を合わせて笑っただけ。
・映画館での会話は若干変更。
・根来と合田の接触場面で、単行本では根来は一切加納の話をせず、合田が加納の心配を察しただけだったのが、文庫では思い切り加納の話をしている。
・合田の離婚後、単行本では単に「地方を巡った」だけだった加納が、文庫では具体的に「大阪から福井へ飛ばされ」と記されている。
・高校・大学時代の友人、から大学の友人となっている。しかし文庫上p.217では「ゼミで知り合った」とあり、同じ上p.339では「図書館で知り合った」とある。どっちなんだ・・・。
~以下、個人的な感想及び突っ込みです~
全体に、文庫より単行本の方が好きです。これは高村作品のほぼすべてに言えます。単行本の方が勢いがあるのがいいです。文庫は、分かりやすく噛み砕いてくれるのはありがたい反面、薄っぺらくなってしまう印象なのです。
例えば、根来と合田が接触する場面で、根来が加納を「虫も殺さぬような端正な顔をして、六法全書が服を着て歩いているようなあの細密主義はなかなか潔い」と表現していて、こういう描写は加納ファンとしては嬉しいんですが、ここの根来は加納の"か"も出さず、合田が加納の心配を察する方がすっきりしているし、合田の勘の良さも際立つと思います。
映画館での会話も、単行本の方がすっきりしている上、読者に「ん?ちょっと待て、理解が及ばない」と考えさせる力があるように思います。文庫での会話は非常に平べったくわかりやすくなった分、会話としての分量は多いのですが、印象が薄くなりました。
また、加納がキヨスクでわざわざ待っていて名簿を渡したり、挙句捜査本部に匿名でファクスまでして、合田を陰で助ける人というより安っぽいタレコミ屋に成り下がっているようで残念です。
あと、どうでもいいんですが、高村さんは連載→単行本→文庫となるたびちょこちょこ改稿されることは有名ですが、わかりやすい削除や加筆はともかく、白骨復顔写真にふれた手紙で
「当時は関係各警察への連絡も、本格的な捜索も行われなかった」(p.66)
が
「当時は関係各警察への連絡も本格的な捜索も行われなかった」(上p.106)
「、」読点をいっこだけ省略する意図はなんなんですかーーー!!??字数調整でもなさそうだし。なんのこだわりなんだ(笑)。
最後に。
マークスの山、単行本では最後の
「いいとも。ゆっくりゆっくり登って、日本一の富士を眺めようか……」が大好きです。
文庫では、キオスクでのランデブー場面でお早うを交わした後の
「可笑しいな。なんでこんなふうなんだろう」がダントツ好きです。
加納のゆったり鷹揚に構えた雰囲気が大好きなのです。
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